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岡山簡易裁判所 昭和42年(ハ)191号 判決

原告 西日本物資企業組合

被告 国

訴訟代理人 小川英長 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 〈省略〉

理由

被告中山秀雄が、同被告を債権者とし、訴外津山紙業有限会社を債務者とする岡山地方裁判所津山支部昭和四二年(手ワ)第四号事件の執行力ある認諾調書正本にもとづき、右債務者津山紙業有限会社に対する強制執行を、岡山地方裁判所津山支部執行官臨時職務代行者松尾勉に申立てたこと、および被告中山秀雄と執行官臨時職務代行者松尾勉とが、右債務名義にもとづく強制執行のため津山市南新座一二番地に臨み、(一)クラフトバンド一一梱包、(二)水付ハンド等全国紙、バンド工業製他二〇梱包、(三)全国ちり紙工業製トイレツトペーパー一八個を差押えたこと、ならびにその競売期日が昭和四二年五月二七日午前一〇時に指定されたことは、当事者間に争いがない。

原告は、右差押物件は原告の占有し、かつ、所有するものであり右執行に際し、差押物件が原告の所有であることを証する納品伝票等を呈示したにもかかわらず差押を執行したものであつて、被告中山秀雄および執行官臨時職務代行者松尾勉は、原告の所有であることを知りながら故意に、または過失にもとづいて差押えたものであると主張するので、被告中山秀雄および執行官臨時職務代行者松尾勉が、右差押当時、これが原告の所有であることを知つていたかどうか、またはそれを知らなかつたことに過失があつたかどうかについて判断する。

〈証拠省略〉を総合すると、

(一)  訴外津山紙業有限会社代表者伊東固は、津山市南新座一二番地に所在する同会社事務所内の在庫商品を処分して債務の弁済を履行するつもりで、昭和四二年四月一七日、岡山地方裁判所津山支部において、債権者である被告中山秀雄との間で、同裁判所昭和四二年(手ワ)第四号事件につき、請求の認諾をしたこと。

(二)  その約一か月後の昭和四二年五月一二日午前一〇時二五分、執行官臨時職務代行者松尾勉は債権者である被告中山秀雄の申立により、その復代理人田中千秋とともに、前記事件の執行力ある認諾調書正本にもとづき債務者津山紙業有限会社に対する強制執行のため津山市南新座一二番地に臨み、右債務者会社の責任者の在否を尋ね、同所に居合せた、その代表者代表取締役伊東固に出会し、前記債務名義を示して任意弁済を催告し、右伊東固が之に応じ難いと答えたのでその差押に着手せんとして差押対象物件を探索し始めたこと。

(三)  その際、伊東固において、「津山紙業有限会社の物件は、昭和四二年一月から、すべて岡山市所在の西日本物資企業組合に譲渡し、ここには債務者会社のものは何もない」旨を陳述したが、前記執行官臨時職務代行者は、右の津山市南新座一二番地の建物には、「西日本物資企業組合津山営業所」と小さな文字で書かれてはいるがその下に「津山紙業」と大書した左横書きの看板があり、同事務所に接続する倉庫内に存在する商品自体に、「津山紙業」と表示した荷札が貼つておることを確認したけれども、債権者復代理人田中千秋において「一度事情を調査してみる故、本日は執行をしないで中止されたい」旨の申出でがあつたこと。

(四)  その際、右執行官臨時職務代行者松尾勉は、右伊東固に対し「明一三日午前一〇時に再臨場する。債務者のいうように物件を譲渡しているのであれば、それまでに関係書類を準備しておいて見せてほしい」旨を告げ、一応催告にとどめて当日は執行を中止したこと。

(五)  債権者復代理人田中千秋において、昭和四二年五月一二日、岡山地方法務局津山支局の商業登記簿につき調査したところ、津山紙業有限会社は同日現在においてその本店を津山市南新座一二番地に有し、その営業の目的は、和洋紙類並びにポリエチレンの販売と、これに附帯する一切の業務であること、ならびに津山市南新座一二番地の前記建物には、前記の看板のほか、建物の角に「津山紙業」とたて書きした看板と、入口横に極めて小さな字で「西日本物資企業組合」とたて書きした看板が掲げられていたが、右建物の前に「津山紙業」と横書きで表示した自動車が駐車してあつたこと。

(六)  翌昭和四二年五月一三日午前一〇時五分、執行官臨時職務代行者松尾勉は、債権者である被告中山秀雄の復代理人田中千秋、同山田昌祐とともに、前記強制執行のため、再度、津山市南新座一二番地に臨み、債務者津山紙業有限会社代表者伊東固に出会し、右伊東固において、「岡山の人が物件譲渡関係の書類を持つて来てくれることになつているが、到着時刻がわからない」と述べたので、右執行官臨時職務代行者は執行に着手し、同事務所に接続する倉庫内に所在するもののうち、その一割弱にあたるもので、梱包などの外側に「津山紙業」宛の荷札が糊で貼つてあるもののみを選び差押えたものであること。

(七)  その際、右執行官臨時職務代行者において、差押物件に対する差押の標示を、ほとんど貼り終つた段階に、原告組合代表者福浦幸男が立会し、「西日本物資企業組合の資格証明書並びに津山紙業有限会社との間の物件の譲渡契約についての公正証書及び商品の仕入れの伝票を呈示し、当所にある物件は総て西日本物資の物件であり差押えを受ける筋合はない」旨を述べ、立会の債権者復代理人は「物件の表示が津山紙業宛の表示であり、異議があれば法的手続もあるので一応執行ありたい」旨陳述しさらに福浦幸男は、「トイレツトペーパーについてはその納品伝票は西日本物資企業組合宛のものであると述べてその伝票を呈示し、「バンド等は同組合津山紙業宛のものである」旨を申立て、同執行官臨時職務代行者は、これらの主張、申立を有体動産差押調書に記載したうえ、差押を執行したことを、それぞれ認めることができる。

以上認定した事実によれば、訴外津山紙業有限会社は、昭和四二年五月一二日および一三日当時、登記簿上、その本店を津山市南新座一二番地に有し、その営業目的は、和洋紙類の販売業であり、同所には「有限会社」の表示があつたとは認められないけれども、「津山紙業」と表示した看板を掲げ、「津山紙業」と表示した自動車を同所前に駐車し、かつ、その代表者代表取締役伊東固が同所に所在して差押に立会し、その事務所に接続する倉庫内には「津山紙業」と表示した荷札を付したトイレツトペーパー、バンド紙などの紙類を格納していたものであつて、右認定の事実関係のもとにおいては、執行官臨時職務代行者松尾勉がそれらの物件を、訴外津山紙業有限会社が占有していたものと認定して差押えたことは相当と認めるべきである。

しかして、およそ、執行官が債権者の申立にもとつき、債務者所有の有体動産を差押えるにあたつては、債務者がその差押えようとする動産に対し、外形上容易に認識され得る事実的支配関係、すなわち、占有を有することを認め得るかぎり、そのものの占有が、債務者の職業、営業目的または生活上関連性が認められないとか、差押物件が債務者の住所、居所、営業所と関連のない場所に存在するとか、当該動産が外形上あるいは所在場所の状況その他から、もしくは強力な証拠資料の提示を受ける」とにより、他人にも、直ちに、第三者の所有であることが明白に認識され得る場合でなければたとえ、債務者がこれを第三者の所有であると主張し、または第三者がこれを自己の所有であると主張したとしても、単に、その旨の申出がなされたことを差押調書に記載することにとどめて、これが差押の執行をすれば足るものであり(執行官手続規則第二六条)、強制執行の迅速性画一性の要求からいつて、執行官において、それ以上に当該動産の所有権の帰属関係まで調査すべき職責を負うものではないと解せられるところ、本件についてこれをみれば、執行官臨時職務代行者松尾勉が、本件差押にあたり、伊東固、福浦幸男から、本件差押物件が、原告組合の所有である旨の抗議を受け、かつ、福浦幸男から、原告組合の資格証明書、津山紙業有限会社との間の物件譲渡契約についての公正証書、商品の仕入れ伝票を呈示されたとしても、それらの抗議または資料の提出により、本件差押物件が、訴外津山紙業有限会社の占有するものではなく、原告の所有に属するものであることが、何人にも、直ちに、明白に認識される場合にあたるものとは認められないから、右の事実をもつて、被告中山秀雄および執行官臨時職務代行者松尾勉が、本件差押物件を原告の所有であると知りながら、故意に差押えたものと認めることはできない。また、以上認定の事実関係のもとにおいては、本件差押物件が原告の所有に属するものであることに気付かなかつたことにつき、被告中山秀雄および執行官臨時職務代行者松尾勉に、注意義務の過失があつたと認めることもできない。

その他、原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、右の故意または過失を前提とした原告の本訴請求は、その余の点に立ち入つて判断するまでもなく失当として棄却を免れない。よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三笠稔)

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